ワイヤーブラシのお話

ワイヤーブラシみなさんは、R&Dの「ツイストワイヤーブラシ」をご存知でしょうか?真ちゅう製のワイヤーがブラシ部分のナイロンの毛に囲まれており、
ナイロン毛といっしょに真っ平らにカットされています。
ぎっしり埋め込まれたワイヤーの切り口は、ともすれば、
埋没しかねないそれぞれの存在を精一杯誇示しているかのごとく、
きらきらと小さく黄金色の光を発している・・そんなブラシです。

手にとってよく観察してみますと、まァなんと硬い針金なんだろう。
指で押し曲げてみますと鋼(はがね)のように、ピンとはね返ってきます。
周囲を取り巻く黒いナイロンの毛は強いワイヤーをやさしくカバーするためにある・・・・・
と考えるのが妥当でしょう。それにしても、このワイヤーのまえでは
太くしっかりしたナイロンの毛さえも、単に強さの引き立て役に過ぎないような感じがします。

初めてこのツイストワイヤーブラシを手にしたとき、
昔、鉄製のガスコンロにコビリ付いた汚れをガリガリと引っかき落とす、
あの金(カネ)ブラシを連想しました。

“この恐ろしい金ブラシと動物の革(靴)との接点は果たしてどこにあるのだろうか!?”
そう考えてしまうとカッコイイ商品もただ、そこにあると言うだけで販売の術(すべ)も
ないままに、そのシーズンも終わろうとしていました。

そんなある日「こんな汚れ落ちるのでしょうか?」と当社営業スタッフがお得意先から頼まれたと言って、
汚れて黒光りしている茶色のリュックを持ち込んできました。
少し厚手のヌバック革でつくられたブランド品(セリーヌ)でした。
「ヨーシ!何とかしてあげよう」
と言ってみたものの、やることは実にせこい。
大きなリュックに小さな消しゴム(スエード&ヌバックイレイサー)で背を丸めながら、
シコシコと擦り始めました。
毛羽立って白っぽくなりますが黒光りは確実に消えてゆきます。
イレイサ―から落ちる砂粒を払い落としながら経つこと20分、ようやくポケットひとつ擦り終えました。
これは大変な仕事です。全部終了するまでのことを考えたら不安になってきました。

その時です、フッと頭をよぎったのはあの“ツイストワイヤーブラシ”です。

「もしかしたら・・・・・。」

胸の高鳴りを感じながら思い切って大きな方を選びそっと擦ってみました。
ザリザリと傷つくような音をたてながらも砂消しと同じように毛羽立ってきました。
「イケル!」
私はもう勝ち誇ったように大きな動きでザックザックと引っかき始め、
すると黒く汚れたリュックはホコリを舞い上げながら、またたく間に白く毛羽立ち始めました。
そして、10分後には擦り終えてしまったのです。
仕上げにはスエードスプレー(M.モゥブレィ スエードカラーフレッシュ)をシューッとかけると鮮やかに茶色は甦り、
リュックは完璧なまでに生まれ変わっていました。
スゴイ奴!見直したのはワイヤーブラシばかりではありません。それを作った人。
きっとこのツイストワイヤーブラシと同様、曲がったことの大嫌いな職人さんかも・・・・・・。
そして、この激しいブラシに負けずに耐えたヌバックという革です。

「剛と柔」

正反対の両者の組み合わせはミスマッチどころか、本当はとても相性が良かったのですね。

ヌバック革はスエード革と違い丈夫な表革をサンドペーパーで毛羽立てしたものです。
ドイツ製のこのワイヤーブラシは平らにカットされた弾力性のある針金がまっすぐに立っているからこそ、
サンドペーパーに比べて起毛皮革により優しい効果を発揮するのです。

イヤ~、持ち味を引き出すことによって生き生きするのは人も物も同じなんですね。

【ツイストワイヤーブラシ】

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