第8話 「売上ストレッチ」

夏のカタログ販売で大ヒットを飛ばした商品がある。
ストレッチャーという靴の伸張器である。
以前に紹介した「ウォーリー・レザーストレッチスプレー」とセットして販売した。
世の中には足に合わない靴で痛い思いをしている人がいっぱいいることが、このストレッチャー人気からうかがえる。
足に合わない靴を売る方が悪いとか、買う方の不注意だとかの議論はさておき、左右の足の形状は違うのだから、痛い悩みは尽きない。
だったら、購入時点で足の当たるところがあれば、専門店はストレッチャーを使って合わせてやればいいのです。
そういうていねいなことをやる店が極端に少ないために、こんな商品がヒットするような気がします。

靴屋さんの紹介で浅草までストレッチャーを買いに来た中年の女性に尋ねてみた。
「ええ、もちろん伸ばしてもらいますが一度だけじゃ、また元に戻ることが多いんですね。
かといって、二度も三度も行くのはわずらわしいし、大体、私は買うたびに当たるんです。家に一台あれば家族で使えるし・・・・・」というのだ。

過去にも似たようなストレッチャーがあったが話題にならなかった。
それは、PRが足りなかったからだ、と私は思っている。
消費者と一番身近な靴屋さんがストレッチャーの販売に関して興味があまりなかったのも一因でしょう。
しかし、自分たちは使っていた。店の奥や倉庫で”ひそかに”。
単純な作業をプロにしかできない仕事にして、今日までわずかな権威を保ってきた・・・・・と言ったら言いすぎでしょうか。

以前、某フランスの有名ブティックから私共で扱っているストレッチャーを「全部見せて欲しい」という電話があった時、私は困ってしまった。
当時は日本にストレッチャーの種類はほとんど無く、品質もお粗末な限りで・・・・が、それでもというので見せに行った。
くだんのガイジンは、それを見るなり「オオ・・・○×□△。」手を広げ、がっかりした様子。
「実は今使っているのがこわれてしまって」と言いながら見せてくれたのがそれは精巧なものであった。
私は恥じ入ってしまった。

幸いこの原稿が皆さんの目に触れる頃にはそういうプロ用のストレッチャーが出荷されているはず。
店の奥なんかで、こっそり使うなんて古い古い。
店内に置いて靴の知識を披露しながら活用してみてはいかが!?

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