シューホーンのお話

皆さんは靴を履く時に“シューホーン”を使っているでしょうか?
一般的には“靴べら” “靴へら”と呼ばれていますが、お客様に“靴べら”について
尋ねてみると、自宅の玄関のみならず常に携帯用のものまで持ち歩くという人
から、“靴べら”たるもの全く使用せずという方まで本当に様々です。

特に革靴を履く時に“シューホーン”を使わないという人の靴を見ると、サイズが
大きすぎるケースやカカト部分が痛んでいたり潰れている、また履く時につま先
をトントンと地面に叩きつけて履く為につま先がキズ付いているなど悲しい気分
になる話ばかりです。
こんな話が出るたびに私たち日本人の革靴に対する意識の低さを実感させられ
ます。

靴用品のR&D:シューホーンのお話また、日本家屋の特徴である畳文化のおかげ(?)で
我々日本人は自宅玄関のみならず、座敷のある
レストランや寿司屋、蕎麦屋、居酒屋、旅館、病院、
時には自家用車(ごくまれではあるが)まで靴を脱ぐ
という生活習慣があります。
靴を脱いだり履いたりするということに限ればその頻度
は欧米よりも多いのです。
そういった意味では、当然シューホーンの使用頻度も必然的に高くなり、靴を
大切に履くという基本を思えばシューホーンも正しく使用していただきたい!

前置きが長くなりましたが、シューホーンのウンチクについて少々述べてみたい
と思います。
シューホーンといってもその素材、形状、重さ、長さは千差万別です。
素材にいたってはプラスティック、メタル、木材、動物の角(つの)、皮革、
真ちゅう・・・等々。
現在では本当に多様化されています。
ご存知の通り、靴べらのことを英語でシューホーン(Shoe Horn)と言いますが
直訳すれば「靴・角」と言う意味です。
詳しい資料はありませんが、シューホーン(Shoe Horn)という英単語から素材
の元祖は「角」であることがわかります。

それではなぜ角がシューホーンの素材に適していたのでしょうか?
答えは簡単です。
丈夫で加工しやすく、靴を履く時のすべり具合が良いからなのです。
しかし動物の角で作られていたシューホーンもその後コストの安いセルロイドの
発明によりセルロイド製が主流になり、さらに安全で加工しやすく大量生産が
可能なプラスティックにその主役は奪われました。

このように時代時代にメインとなる素材の変遷はありましたが、いずれの素材
にも共通する点がひとつだけあります。
それは「すべりが良い」ということです。
この“すべる”という動きはシューホーンを使って靴を履く時には大変重要な
キーワードとなります。
なぜなら足を靴の中に入れて、靴と足のカカト部分にシューホーンを当て垂直に
引き上げると同時に足はすべるように靴の中に収まるからです。
簡単に言えば、シューホーンはカカトをすべらせて靴の中に足を収める道具
ということになるのです。
昔は関西地方などでシューホーンのことを「すべり」あるいは「靴すべり」と
呼んでいました。(今でもそのように呼んでいる方はすみません)

靴用品のR&D:シューホーンのお話また、余談ですが、およそ4~50年前には「文化べら」
という横着な人向けのおかしな商品もありました。
それはカカトの形にぴったりと合った薄いセルロイドを
靴のカカト部分に付けたままにすることで、靴を履くとき
にシューホーンが無くてもカカトがすべり、そのまま靴が
履けるといったものでした。
もちろん“文化べら”は歩いているときも装着し続ける為、
その外見はおせじにも良いものとはいえませんが・・・(笑)

話がそれましたが、あくまでシューホーンは”すべらせる”ことがその役割である
ということが分かっていただけたと思います。
しかし、最近は以前に比べ、シューホーンが折れる、メタルのシューホーンが
90度近く曲がってしまうという、我々にとっては考えられない奇怪な事件
(!?)が起こっているのも事実です。
理由は一目瞭然です。
先に述べたようにシューホーンを垂直に引いてすべらせるのではなく、靴に
対して斜めに入れてシューホーンをカカトで折り曲げてしまう為です。
当然シューホーンは割れたり曲がったりしますし、靴のカカトも痛みます。

やはり靴を履く時は、ヒモをきちんと緩めシューホーンを使い垂直にスッと
抜いて靴を履くことが、カカトも傷まず靴も長持ちします。
もし、外出先でシューホーンが無い時は、せめて紙などを小さく折りたたみ即席
の靴べら使って靴を履いてください。
先人が考え出したすばらしき発明品であるシューホーンは靴を大切にする皆様の
必携品です。
玄関にはもちろん外出用としても内ポケットやカバンにお気に入りの一本を
忍ばせておくことが、靴に対するさりげない愛情表現となります。

【アビィ・シューホーン】


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