第9話 「シュートリーの復活」

「シュートリー(Shoe tree)」って知っていますか?
ベテランの販売員ならともかく、若い人はあまり聞きなれない言葉かもしれない。
これは、レッキとした靴の専門用語で、木製のシューキーパーのこと。
「シューキーパー」といったら、ああ、あれかと納得するのでは。
ただ、厳密に言えば、シュートリー=シューキーパーとは限りません。
プラスティック製ではなく木製のキーパーをそう呼ぶべきである。
そのシュートリーが今、脚光を浴びている。

これを買い求めているのは主に革底の本格的トラッドシューズやインポートシューズ、アウトドアシューズファンなどこだわり派の面々であります。
インポートのシューズに必殺!という感じでいかめしいシュートリーが入っている。
つまり”本当の中の本物”宣言なのだ。
それにシビれたオーセンティック志向の皆様が欲しがっているのである。

ところで、このシュートリーは小売価格で6000円~8000円位が相場のようですね。
これに対して、靴の専門店の中に”値段が高すぎる、そんなに出したら靴が1足買えるではないか。
”という否定的名意見が圧倒的に多い。
何とまぁ、ナンセンスなことだろう。
お客は本物志向で欲しがっているのに、そんなものはやめて安いものを買っときなさいと言っているのと同じである。
実にプァーな発想ではないか。
経営コンサルタントの先生方が”今の靴店の2/3、少なく見ても1/2は消滅する。
”という警告も、まんざら誇張ではないような気さえします。

そのシュートリー、わが国でいつ頃から売られていたか知っていますか?
若い人は多分知らないだろうな。
年の功でオジさんが教えてあげましょう。
私の生まれる前の遠い昔のことはともかく、昭和30年代の前半までは確かに売場に出ていたはず。
合成底が大量生産される以前の革底時代です。

そう、革底とシュートリーには密接な関係がある。
水分を吸った革底は脱いだ後も爪先がピンと立って船のような形をしている。
革がくたびれてアゴを出している状態といって良い。
そこで主人は、ウヌ、ダメダメ、と叱るか、優しくお疲れさんと言うか知らないけれど、シュートリーをバッチリ装着する。
まさに靴に正しい生き方を教える道具(ギア)なのである。

いや、そういう実用的な効能だけじゃない。
やっぱり気分じゃないですか。
さて外出というとき、靴箱から重厚なトラッドシューズを取り出し、アゴヒゲあたりをなでながら、ウムといった感じでシュートリーに手を・・・・・
こういうドラマティックな気分は、なかなかのもの。
シャキッとして思わず背筋が伸びるでしょう。
だから余計な心配をせずにプラスティック製のシューキーパーではなく、胸をはってシュートリーをすすめたい。

マスプロの合成靴のおかげで、われわれは安くて丈夫な靴を履けるようになった。
けれども、そのために革底本格仕立ての靴の味を忘れてしまった。
その良さを今消費者が求めているのである。
シュートリーを手にとってそういうことをジックリ考え直すのも専門店として大変に意義のあることのように思われます。

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