第2話 「皮肉なクリーナーの話」

靴の手入れでもっとも重要かつやっかいなのは汚れを取る作業である。
革靴の汚れには表面に付着しているアカと油などが深層部にしみ込んだシミがある。
アカを落とす方法はたくさんあって比較的楽だがシミ抜きは難しい。
ところが困ったことに今市場に出回っている靴はアニリン染めカーフとかヌメタイプなどシミや色落ちになりやすい革があふれています。
このため靴クリームメーカーでは機会あるごとに「シミをつくったらおしまい。
靴を買ったら必ず防水剤で予防を!」と呼びかけている。
アフターケアは過去のもので今はビフォアケア(事前の手入れ)の時代というわけです。
 
アカ取り用クリーナーの代表格はなんといっても、あのチューブに入った「クリーナー」である。
私の好みを言わせてもらえば、あのアンモニアのツンと鼻を突くニオイと、
アカは落ちてもクリーナーががギラギラと表面にへばりついて仕上がりも今ひとつあまり好きではない。
にもかかわらず今でもかなり売れています。

しかしながら、このアルカリ性のクリーナーも、どうやら”風前の灯火”となってきました。
理由はデリケートな革には不向きであるから。
そこで登場したのが、現在主流になっている中性クリーナー。
これは従来よりも色落ちは少ないがその分だけアカが取れない。
しかし使いやすいので現在は中性が主流になってしまいました。
アカの落ちにくい中性クリーナーの方が人気があるというのはなんとも皮肉な話ではありませんか。

最後に、ちょとした裏話。私の知る限りでは、あのチューブ入りのクリーナーというのは、
どうやら日本の専売特許のようで(もとは機械油などを落とすハンドクリーナーだった)ヨーロッパには無いようなのです。
向こうに行った時、あちこち捜しましたがとうとう発見出来ず。
シューケアカタログにもチューブ入りのクリーナーはなく、表面のアカ取りは泡状、もしくは石鹸です。
ナニッ、石鹸で・・・・・?驚くなかれ。
これが実に優秀なシロモノです。
次回は「革靴を洗う」話をしてみましょう。

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