第4話 「塩吹き靴の怪」

「靴クリームを使ったら、靴の先がシロっぽくなり、ニキビのようなブツブツがいっぱい出来てしまった。」
ある男性消費者から電話が入った。
デパートで高価な靴を購入したときにクリームの最高品だと言われた物を一緒に購入。
この靴専用のクリームとして大事に履いていたというのである。私はびっくりした。
このクリームとは「デリケートクリーム」シミをつくらない保革剤として、わが国にも隠れたファンが増えている。
「どこで売っているのか」という問合せも多い。
デリケートクリームには絶対の自信を持っていたのです。
それなのに”ニキビ”とは・・・・・?

さては塩吹きのしわざだナ、と直感した。
読者の皆さんもご存知でしょう。
靴は履いていると足の汗をたっぷりと吸い皮革に滞留しています。
それが雨にあたり水分を吸うと塩分となって吹き出すというわけ
いったん塩吹きになるとこれがなかなか取れない。
靴クリームを上から塗ってもダメ。
こんな相談を持ち込まれたら、あなたはどうしますか?

電話の男性にはひと通り説明し、クリームのせいではないことを納得してもらったものの、気になって仕方がない。
翌日、私はその人の勤め先である神田の小さな事務所を訪れた。
突然の訪問は大変喜ばれ、早速靴を拝見となる。
なるほど両足ともつま先はニキビがいっぱい。
ちょっと見たことないくらいの重症です。
調べてみたいという私に対して「研究材料に差し上げます。」と。

持ち帰って、ニキビの実態の研究にとりかかった。
”塩吹き”を前提にしてどうやって塩を抜くか。
まずは塩吹き専用のクリーナーで攻める。
何度か繰り返すと、少しずつシミが薄くなった。
更に前号で紹介したサドルソープで追い打ち。
まずまずの戦果でありました。もう片方はどうしたか。
これを私は過激にもバケツの中に突っ込んだのです。

ヒントは、漬物の塩抜き。
30分ほど放置して引き上げてみると何と半分以上消えている。
喜んでさらに30分。
水を思い切り吸った靴は重いものです。
しかし、60分の入浴(?)で塩はおろか、ニキビもすっかり消えていた。
革が乾かない前に最終の仕上げ。
サドルソープで軽く洗い、キーパーを入れて寝かせる。
見違えるようにきれいになった靴を本人に戻すとそれは大喜び。
いい気分でした。

さて、ここで塩吹き対策をまとめておこう。
?まず、汚れがひどくなったらサドルソープで時々洗う。
これは予防策。
?軽い塩吹きは、ステインリムーバーを布にひたして拭く。
水で濡らしたタオルでたたくようにしても効果有り。
?重症の塩吹きはバケツへ直行。
それが怖い人は?を繰り返す。
水は決して皮革の天敵ではないということです。
恐れずに利用して塩吹き退治を。
実際に試してみると細かいニュアンスもつかめ”お店のノウハウ”になります。

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