革靴のクリーニングのお話

「革靴を水で洗う」

一般の方にはかなり衝撃的なフレーズかもしれません。
しかし、近頃シューリペアショップやクリーニング店でも
「靴のクリーニング承ります」の文字を見ることが多くなってきました。
昔は禁句のように誰も言っていなかった、靴の水洗い、クリーニングを創業当時から熱く語り続けているR&Dとしては自分たちの活動が認められたような感じがして、うれしく思います。
そこで、今回のお話は革靴のクリーニング(水洗い)についてお話いたします。

まず冒頭にあるように、なぜ革靴のクリーニングや水洗いと聞いて、一般の消費者の方々が驚くのでしょうか。
お客様に質問すると、
「革に水は大敵だから・・・」
「革に水をつけると駄目になってしまいそうで・・・」などという印象からきているものが多いです。
日本では靴の歴史が長くないため、靴のお手入れについての文化や慣習が成熟していません。
本格的に革靴を履き始めたのは戦後といっても過言ではないでしょう。
この短い歴史の中で、戦後の高度経済成長の「使い捨て文化」や「簡単・便利」といった背景からか、靴のケアのことは余り語られずに
「雨に濡れるとシミになるので、防水スプレーを必ずして下さい」
といって靴が販売されていたことも少なくありませんでした。
“雨に濡れるとシミになる・・”“防水スプレーを必ずして・・”というフレーズは雨や水に革靴が弱いという暗黙のメッセージとなり、さらに雨の日に、靴にシミを作ったことのある方々が、お手入れ方法や対処法がわからないという苦い経験によって、革と水のネガティブなイメージを作り出したのです。
その結果、「靴を水で洗う」ということを、想像すらできない日本独特の靴文化・慣習ができあがりました。
かくいう私も十数年前にイギリスでホームステイをしていた時、英国人が、ホースで靴に水を掛けてから布で拭き、靴クリームを塗っている姿を見て、とても驚いた経験があります。
今から考えれば、少し雑ではありますが合理的な方法です。
しかし当時はそういう知識や経験がなかったのでかなりの衝撃度でした。

では、靴に水は駄目というイメージをもった方々の靴は、どのような状態になるのでしょうか?
その昔、東京新聞の記事で「ブーツの中のにおいに要注意!」という記事が載っていました。
(株)シービックさんの調査によると靴内環境実験で、密閉度の高いブーツの場合は夕方には湿度が96%に達してなんと熱帯雨林気候にも勝るすごさだそうです。
そのくらいブーツや靴はムレますので、足からでる汗の量も並大抵ではありません。
一説には一日靴を履いていると約コップ半分から一杯の汗がでるとも言われています。
それだけの量の汗が靴(皮革)に吸収されますので、長期間履いている靴には多量の汗が入り込むことになります。
ご存知の通り、汗には少量ですが塩分が含まれています。
塩が入り込むと皮革も傷みます。
そういった意味では、長年履いている靴を洗わないということは衛生的にも良くないでしょう。

例えば、汗でびっしょりになったTシャツの場合は、誰もがすぐに洗濯をするはずです。
洗濯をしないTシャツをそのまま着続けたことをイメージして下さい。
そのTシャツはどうなるでしょうか?
着ている人はどうでしょうか?
洗ったことの無い靴の状態が想像できると思います。
クリーニングでも水を使わないドライクリーニングでは、汗の汚れは落ちないといわれていますが、だからこそ汗の成分がたっぷりと染み込んでいる靴をきれいにしようと思えば、靴の水洗い(クリーニング)が必要になるのです。

革靴用の水洗いの方法は、各業者さんによって違うようです。
使用している洗剤や石鹸も様々ですが、R&Dでは表革(スムースレザー)にM.モゥブレィ・サドルソープを、スエード、ヌバック等の起毛皮革にはM.モゥブレィ・スエードシャンプーをおススメしています。
これらは自宅で手軽に革靴の水洗いが可能で、しかも効果抜群。
洗い方も簡単で、要するに泡立てて、軽くこすって、ふき取る。
洗顔と全く一緒です。
靴を洗うと革に滞留した不純物が取れてさっぱりします。
そして、本当に革靴が生き返ったように元気を取り戻し、長持ちもするのです。
R&Dはこの世に靴がある限り、この楽しさ、すばらしさをより多くの方に広めることをやりがいにして、靴の水洗い伝道師として活動し続けます。

靴を洗う「スエードシャンプー」の正しい使い方について:
スエード・ヌバック(起毛皮革の靴)

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